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身体感覚を通じてシステム変容に迫る〜U理論と身体知性を組み合わせたSPTとは?〜

  • 2020年1月31日
  • 読了時間: 12分

更新日:2023年1月12日

エコロジーや生態系を切り口にこれからの時代の人間観やビジネスの在り方を探索する領域横断型サロンの第4弾が昨年の8月1日に開催された。


今回のテーマは「身体知性:身体を通じてシステムを体感する」


イノラボ・インターナショナル共同代表の井上有紀さんをお呼びし、個人やシステムの変革理論であるU理論と身体性を組み合わせたSPT(ソーシャル・プレゼンシング・シアター)という手法を体験する1DAYワークショップが行われた。



会場は駒込にあるGAホールという場所。循環型社会や自然との共生をテーマに活動される建築家・相根昭典氏が天然素材にこだわって設計されたというスペースで、大の字で床に寝転がってしまいたくなる。身体ワークを行うにはもってこいのスペースだ。


全体の参加者はおよそ20名ほどで、大学生から経営者まで、業種もバックグラウンドも様々。中には、海外留学から一時帰国中の学生や、長野から来られていた教員の方などもいらっしゃったようだ。



深いつながりを取り戻すための問いかけ「オープンセンテンス」


自己紹介を終えた後は、そのチームで「オープンセンテンス」というワーク。これは、米国の仏教哲学者で社会活動家でもあるジョアンナ・メイシーが提唱するもので、一人ひとりの内面や他者、あるいは自然や社会等の世界との深いつながりをとり戻すための手法の一つだ。


途中まで書かれている文章(オープンセンテンス)が配られ、その文章に続く自分の言葉を紡いでいくというワーク。


「私が今、身の回りの人や身近な世界で起こっていることで感謝していることは・・・」


「地球の上に生きていて、本当に良かったと私が思うことは・・・」


「この社会や地球で起こっている出来事を目にして、私が心を深く痛めるのは・・・」


など幾つかのセンテンスに導かれて、それぞれが内なる世界に少しずつ、深く入り込んでいく。時には沈黙も起こるが、それもまた必要な余白だ。




このワークは、ジョアンナ・メイシーの「アクティブホープ」という本で、つながりを取り戻すワーク(Work To Reconnect)の一部として紹介されている。もしも世界や地球の状況に絶望を感じていたとしても、どんな状況であれ、希望というのは実は自ら能動的(=Active)に選び取ることができる、というのがアクティブ・ホープの考え方だ。そしてその営みは、絶望や痛みでさえ自分の中に感謝や愛があるからこそ感じ取れる、ということを認識することからはじまる。


ワークの後に、「今まで意識したことはなかったけれど自分が実は感じていた想いに気づいた。世界、社会、地球など大きな言葉を使うのが苦手で避けていたが、オープンセンテンスにより自分の意識の範囲が広がったような感じがあった」といった参加者のシェアもあったが、まさに自分の意識の境目が溶けていくように、少しずつ深い内省へと入っていくような時間だった。



ランチは無添加オーガニックのMidorieさんのお弁当を味わいながら歓談。ランチを食べた後、お腹の中に食べ物が入り、重心が少し下がった感じがした。普段は見過ごしてしまうような、そんな感覚に気づけたのもこんな場だったからなのかもしれない



社会システムの変容と個人の変容のつながりを取り戻すSPT


ランチの後は、いよいよ本日のテーマでもあるSPT(ソーシャル・プレゼンティング・シアター)のワークへ。


SPTは、舞踊家で振付師であるアラワナ・ハヤシ氏(井上さんの師匠)が、オットー・シャーマー氏から個人やシステムの変容理論であるU理論を身体で体験するための方法を創れないかという要望を受け、生み出した手法だ。


井上さん自身は、2011年に米・オハイオ州でオーセンティック・リーダーシップをテーマにしたカンファレンスでSPTに出会ったのだという。社会起業家やソーシャルイノベーションの研究者としてリサーチやコンサルティングの仕事している中で、システムを外から他人事として理解することの限界を感じ、社会システムの変容と個人の内面的変容の関係性を探求していた頃だった。


3.11の東日本震災直後であったこともあり、社会変革をより一層推進しなければと意気込んでいたものの、いざSPTをやってみると、身体は前に進もうとしない。むしろ、前進することを拒み、何かを守るかのように自分を抱きしめていた。そんな体験の中で、頭で考えるのではなく身体の声に耳を傾けること、そして自分の中の怖れや不安をありのままに抱きしめることの大切さ実感したのだという。





言語による思考を手放し、身体に主導権を委ねる


いよいよ体験ワークがスタート。まずは、感じたままに自由に動かし、身体が何を感じているかを観察するワークから。


感じたままに動く。ゆっくり歩いてみたり、背伸びをしてみたり、寝転がって丸まってみたり。頭で考えることに慣れ、最初はなかなか難しそうにしていた参加者も次第に少しずつ身体に主導権を委ねていく。


歩いてみたら片足の筋肉だけがすごく頑張っていることに気がついたり、よかれと思って腰を伸ばすストレッチをしてみたら、実は「それは痛いよー、しんどいよー」という身体の声が聞こえたり。普段何気なくやっている行為も、体が何を感じているかを観察しながらやってみると意外な気付きがあったようだ。




普段、僕らはどうしても頭で考えてしまいがちだ。思考(マインド=M)にどんどん引っ張られて、いつの間にか自分の身体(ボディ=B)から離れて、根っこのない宙ぶらりんな状態になっていってしまう。


SPTでは、身体に主導権を委ねていくことで、地に足ついたボディを取り戻していくわけだが、ここには3つのボディというのがあるそうだ。


1つ目は自分の物理的身体としてのボディ。二つ目は何かを共有している集団としてのソーシャルボディ。最後は、地球としてのアースボディだ。


「シアター」という言葉に込められているように、個人やシステムで起こっていることをボディを通じて表出させていくアプローチがSPTなのだという。





システムを身体で体感する〜互いに影響し合う相互作用〜


続いて、先ほどのワークを4人1組のチームで行った。


4人の空間(ソーシャルボディという)を、例えば車を運転するときに車体全体を自分の体として捉えるような感覚で、感じてみるというインストラクションを受け、先ほどのワークを他の3人を感じながらやるだけなのだが、これがまた非常に面白い。


他の人から距離を置こうとする人、自分のペースを保つ人、居心地が悪くなり急に遠くに走り出す人、距離のバランスを取ろうとする人、背中を取られまいと常に他の3人が見える位置を取る人 etc..


各々が感じるままに動いているのであるが、そこには同時にお互いの動きが影響を与え合う関係性がある。しかも、寂しさや安心感、あるいは励まされたり、逆に居心地の悪さを感じたり、一人の時には生じなかったような様々な感情や反応が目まぐるしく生まれていく。それを受け取って身体がさらに動くと、それがまた全体に影響を与え、次の状況へと展開していく。


参加者からも「もはや何が自分のものなのかがわからなくなっていく感覚があった」「4人が一つのチームという意識を向けると、そこに向かって一人ではない有機体としての自分を感じられました」といったシェアがあったが、まさにシステムとして相互に作用し合っていくということが体感されるワークであった。





身体が受け取っている情報をベースに、自分の現状と向き合う


最後に行った、「スタック」というワーク。


4人1組になり、自分の現状で起こっているスタック(行き詰まり)を身体で表現するワークだ。


ワークは大きく2段階に分かれ、まずは、自分の身体で現在のスタックを表現するワーク。とにかくそのスタックを身体で味わい尽くし、感じるがままに身体を動かしていく。ここだと思うポイントで止め、残りの3人から外から見て感じた感想やコメントを述べる。


2段階目は、自分のスタックに他の3人を共演者として巻き込むワーク。他の3人の立ち位置とポーズのディレクションを行った上で、スタート。それぞれが感じるままに動き出していき、ここかなというところで止める。



井上さん(中央奥)と参加者によるデモワークの様子


このワーク、自分がどのようなスタックを扱っているかは説明しない。面白いのは、言葉を使わずに身体で表現したものに対して、それを観察している他の参加者から驚くほど本質をついたコメントがきたりする(時にはグッとくるものもあるが笑)。特に他者を巻き込んでの2段階目のワークでは、言葉でさえない、身体性を通じた周囲とのダイナミズムの中で新たなリフレーミングが自然と表れていくのだ。


参加者の一人は、身体を使ったコミュニケーションでは、言葉を使ったときに比べて、自分自身の態度の寛容さに気づき、それが展開性を生んでいたという。これが会話だったら、いやそういう意味じゃなくて、になるところが身体の動きはそこに「在る」のみ。だから、あ、そう見えるのね?じゃあ、これはどうかな?と展開していく。


普段のビジネスシーンでは当たり前になってしまっている問題解決思考を手放すことで、参加者の多くが、こうした身体を通じたコミュニケーションのスピードの早さに驚くともに、自分のスタックの状況に対するリフレーム(新しい観点・捉え方)を得られたようだ。



SPTとU理論〜身体感覚を情報源に、Uの谷を降りる〜


冒頭で紹介があったように、SPTはU理論を身体的に体感するためのアプローチだが、U理論には、VOJ・VOC・VOF(判断の声・皮肉の声・恐れの声)という、Uの谷を降りていく上で手放し、乗り越えていく3つの内なる声がある。


「自分が障壁だと思って指示をした役が、実は自分が勝手に作り出していたことに気がつけた」


「相手を押し退けようとするとより強く反発されていたのが、コントロールすることを手放し、力を抜いて受け入れた途端に自然とかわしていってしまった」


「スタックと向き合うことで、どのような結果が出るのか実はとても怖かった。でも、やってみて自分の想像もしなかった方向性が見えて視界が晴れた」


最後のダイアローグでシェアされた参加者からのこうした気づきには、まさに、こうした内なる声を乗り越えていく過程が表れていたように思えた。と同時に、今回はSPTの入り口を体験させてもらったに過ぎない。企業が抱えるビジネスイシューや大きな社会課題を扱い、集団としてUの谷を降りてのぼっていくやり方もあるとのことだ。


また、最後に、身体感覚を日々の生活に活かしていくためのアドバイスとして、リソーシングというワークを教えていただいた。自分にとって大切なリソースを思い浮かべてただただ味わうというワークだ。普段使わない知覚を目一杯使って疲れてしまった時やエネルギーが足りてないなと感じた時には、こうしたエネルギーをチャージできるワークと組み合わせてやってみると良いかもしれない。



U理論を解説する井上さん



編集後記:身体感覚や感情を情報源に生きるということ


私たちはいつから頭と身体を切り離して捉えることに慣れてしまったのだろう。


有紀さんとの温かな場を共にしていると、そんな言葉がふと浮かんでくる。


例えば、最初のオープンセンテンスのワーク。感謝を丁寧に味わうと手足がじんわりと温かくなる感覚があり、痛みを味わうときゅっと首元の筋肉が緊張することに気づく。心と身体は最初から分かれてなどいない。


では、頭と身体はどうだろう?身体に主導権を委ねる時間をじっくり味わって感じるのは、自分とのつながりを取り戻す第一歩は、実は頭と身体のつながりを取り戻すことなのではないかということだ。それは同時に、世界とのつながりを取り戻すことでもある。そう、内と外はつながっているのだ。


今の僕らは、言葉で、頭で考えることからはじめてしまいがちだ。でも身体は、頭で考えるよりもずっと早く、先んじてシステムをセンシングしている(1人から複数人になった途端に起こる身体反応や相互作用は非常に面白かった)。だから、身体が受け取っている情報ベースにしたコミュニケーションの方が共創的でコレクティブな状態に入っていきやすいし、場に現れてしまうのがはやい。身体のコミュニケーションの方がスピードも展開性があるという参加者のコメントは、実に的を得ていた。言葉出発だと、分離と順序の世界なので理解しようとしてしまい辿り着くのにすごーく遠回りしてしまう感じだ。


ヒトと自然。知性と感性。意識と無意識。 因果性と偶然性。頭と身体。そして、わたしと世界。


情報が洪水のように溢れ、様々なモノコトが複雑につながり合う世界を生きている一方で、実は、気がつかないうちに大切なものが切り離されてしまっているのかもしれない。


頭で受け取り、思考ベースで処理するのではなく、身体が受け取った情報を身体ベースで処理していく。そこに、ヒトが生命として持つ本来的なつながりや根っこを取り戻し、エコロジカルな在り方や人間観と向き合うヒントがあるかもしれない。


社会や自然環境という壮大で複雑なネットワークシステムとより良く関係し、実装し、変容が生まれていってしまうヒントがあるかもしれない。


・・・これは、今回のエコロジカルミームVol.4を企画するにあたって書いたイベント案内文だ。


僕たちは想像力の及びそうもない壮大なシステムを前に、どうしても外側からその全体性を捉えようと必死になってしまう。


でも、そのシステムは頭で考えるにはきっともう複雑すぎるのだ。


だから、その前に自分が、自分の身体が、そのシステムの一部として何を感じ取っているのかに耳を傾けることからはじめてみる。思考が作り出していた様々な境界線を溶かし、内と外のつながりを取り戻すためのその一歩が、どれだけパワフルなことか。


今回の体験は、そんな感覚を取り戻すきっかけとなっていくような気がした。


TEXT BY YUDAI SHIRAHAMA

EDIT BY YASUHIRO KOBAYASHI


小林 泰紘 Yasuhiro Kobayashi


人と自然の関係を問い直し、人が他の生命や地球環境と共に繁栄していく未来(リジェネレーション)に向けた探究・実践を行う共異体 Ecological Memes 共同代表/発起人。インドやケニアなど世界28ヶ国を旅した後、社会的事業を仕掛ける起業家支援に従事。その後、個人の生きる感覚を起点とした事業創造や組織変革を幅広い業界で支援したのち、独立。現在は、主に循環・再生型社会の実現に向けたビジョン・ミッションづくり、事業コンセプト策定、リーダーシップ醸成などを支援・媒介するカタリスト・共創ファシリテーターとして活動。


座右の銘は行雲流水。趣味が高じて通訳案内士や漢方・薬膳の資格を持つ。菌と共に暮らす ぬか床共発酵コミュニティ主宰。馬と人とが共にある クイーンズメドウ Studios 企画ディレクター。株式会社BIOTOPE 共創パートナー。一般社団法人 EcologicalMemes 代表理事。『リジェネラティブ・リーダーシップ』を日本に伝え、実践・深化させるためのリーダーシッププログラムや翻訳活動を展開中。



 

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